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金融円滑化法、期限切れ目前、返済に困った企業への実践的アドバイス

はじめに

借りた金は返す - 至極、当たり前のことですが、長引く不況に加えて、
リーマンショックや東日本大震災の影響もあって、
この大原則の順守が困難になってきている企業が急増しています。この事態に対応すべく、
2009年12月連立与党になった国民新党の亀井静香金融担当相の強いキモ入りもあり、
中小企業や個人の住宅ローンの支払いを条件つきで猶予しようという
「中小企業金融円滑化法」が施行されました。
この法律は、当初11年3月末までの時限立法でしたが、延長に次ぐ延長で、
来年13年3月まで返済猶予が伸ばされました。しかし、
政策当局からも、金融の現場からも「今度こそ最後」と見込まれています。

こうした流れに呼応するかのように、
金融関係者の間では「ゾンビ(死に体)企業は退場」ということが、
なかば公然と語られるようになってきています。その一方で、
「元金の返済を猶予してもらってきたから何とか首の皮一枚で繋がってこられたが、
元金も利息も返せといわれたらとても無理だ」という
中小企業の悲鳴にも似た悲痛な声も少なからず聞かれます。
また、「13年3月末がリミットというが、4月以降はどうしろというのか。
手形を切ってるわけでもないが、何がどうダメだというのか」
といった具体的な疑問も湧いてきています。

13年3月の期限まで半年を切ったなか、
円滑化法についてのニュースが連日報じられる一方で、
それでも払えない企業は何をどうしたらいいのかといった点についての
具体的な解説やニュースは、あまりありません。
実際の返済についても、金融機関と当事者である中小企業以外には、
そのやりとりはあまり知られてきてはいないのが実情です。
せいぜい、「資金繰りに苦しんでいる」という一言で片付けられてきた、
といっても過言ではありません。

では、具体的な流れはどうなっているのか。
私は、かつて国民金融公庫(現・日本政策金融公庫)という
中小企業に融資をする側に身を置き、今は中小企業経営者として
融資を受ける側にいます。延滞こそありませんが、両方を体験してきました。
その経験もふまえて、実際の返済や金利の仕組みと
延滞した場合の流れなどを中心に、この問題を少し掘り下げてみたいと思います。

返済の仕組みと利息計算

まずはおさらいを兼ねて、実際の借入金の返済や利息について具体的に説明しましょう。
たとえば、計算をわかり易くするために、120万円を毎月10万円ずつ、
年利12%で払うといった想定にします。
この場合、利息の計算は年利12%ですから、「両端入れ」とか「うるう月」といった
専門的な計算を省略すれば、月利は1%になります。
利息は元金残高に対してかかってきますので、
1月1日借り入れで毎月末日払いにすると、以下のようになります。

    元金・割賦金  利息  支払合計  元金残高
1月末  100,000   12,000  112,000  1,100,000
2月末  100,000   11,000  111,000  1,000,000
3月末  100,000   10,000  110,000   900,000
  ・      ・       ・      ・       ・
  ・      ・       ・      ・       ・
  ・      ・       ・      ・       ・
12月末  100,000   1,000  101,000       0
______________________________________________________
合計  1,200,000   78,000  1,278,000      0

よく、元金120万円で金利が年12%だから120万×0.12=140,000
と計算するケースがあります。アドオン(ADD ON)などと呼ばれる計算方式です。
しかし、利息とはもともと元金残高に対してかかるものであり、
毎月元金を払っているのであれば、この方法は利息ではなく、
手数料にあたります。ちなみに、上記計算方法とアドオンによる計算方式では、
同じ金利のように見えて、たった1年の場合でも倍近い差が出ることがわかります。

144,000-78,000=66,000

「金銭消費貸借契約」という一般の融資では、
運転資金5年、設備資金7年といった期間のしばりがあるのが普通です。
仮に3000万円、5年返済、年利3%で借りた場合、毎月の返済額は元金50万円に、
金利(月利0.25%)ですから、当初の月は金利だけで75,000円近くになります。
つまり、残高が多い期間は金利もバカにならないのです。
このあたりは、「元利合計均等」で毎月の返済額が一定の住宅ローンとは異なります。
ちなみに、住宅ローンの場合は「PMT函数」という計算に拠り金利も事業資金の融資に比べ
高くなりますが、ここではこれ以上論及しません。
仮に、ここでつまずいて2ヶ月分の支払いが滞ったとします。
すると元金だけで、50万円×2=100万円
これに利息が1ヶ月7万円として2ヶ月で14万円になります。
これだけではありません。返済の遅れに対するいわばペナルティとして、
延滞利息が普通利息とは別にかかってきます。
この金利は、通常日歩4銭(年利14.6%)が相場です。
1~2ヶ月の延滞の場合は、毎月の元金50万円に対してのみですから、
1ヶ月6,000円ほどです。
しかし、金融機関の運用にもよりますが、通常数ヶ月延滞が続きますと、
「期限の利益喪失」といって、元金残高全額に対して延滞利息がかかってくると共に、
即時一括全額返済を迫られることになります。
例えば、借入残高2,800万円の時点で、期限の利益を喪失しますと、
延滞料金だけで1ヶ月34万円もかかってきます。
ですから、仮に残高2,800万円で6ヶ月返済が滞った場合、
金融機関やそれを引き継いだ債権回収会社(サービサー)は、
ざっと以下のような金額の請求書兼督促状を送ってくることになります。

元金残高         2,800万円
普通利息6ヶ月分(概算)402,250円(70,000+68,750+67,500+66,250+65,000+63,750)
延滞利息6ヶ月分    2,044,000円
______________________________________________________
合計(概算)       30,446,250円

つまり、たったというか半年返済が滞った場合の債務の残高は、こんなにも膨らむのです。

債権回収専門会社・サービサー

金融機関の流れはどうなっているかというと、
もとよりカウンターや受付だけで回ってはいません。
融資、貸付、回収から法的手続きを専門にやる部門もあります。
最近は、一定期間督促してもなお返済が滞る場合は
前にも触れたサービサーといわれる外部会社に金融機関の債権を移譲し、
その後の返済はこちらの方で担当するといったケースが多くなっています。
ちなみに、サービサーというのは暴力団などの不当な取立てや債権譲渡を排除し、
適正な債権管理を専門とする事業者を育てるべく、法務大臣の許可を条件として
99年2月にスタートした債権回収専門会社のことで、
金融機関系列などを中心に約100社あります。
金融機関としては、初期の延滞口や有担保債権などを除き、
特に長期間こう着した債権などを中心に
サービサーに一括して売却するケースが増えてきているのです。

第3者保証人は廃止

ところで、以前は融資を受ける場合には、「経営改善貸付」などの
特別な貸付を除き、連帯保証人を付けるのが絶対条件でした。
この場合、法人の代表者や配偶者だけでなく同等の資力のある第3者保証人も必要でした。
ちなみに、連帯保証人というのは万一の時に、債務者や他の保証人から
先に請求してくれといった言い訳、これを「催告・検索の抗弁権」といいますが、
この抗弁権のない保証人のことをいいます。
極論すれば、債務者と同じ義務を負うことになります。
さすがに、この制度は以前から批判も強く、包括根保証制度に続いて
11年7月から原則廃止になりました。だからといって、代表者
つまり経営者本人への制度までが廃止になったわけではありません。
従って返済が滞った場合、金融機関は折衡でラチがあかない場合、まず資産があれば
それを「仮差押え」するか、任意売却もしくは競売による回収を図ります。
この場合、仮に売却してお金が入ったとしても、日本は欧米の「ノンリコース(不遡及)」
と違い、あくまで残金も払ってもらうという「ウイズリコース(遡及)」制ですので、
残債がある限り請求され続けます。
しかし、絵に描いたような回収はほとんどできません。
加えて今は、土地・建物といった不動産を担保に入れて借りるというケースは、
高額な場合を除いてあまりないため、多くは債務者兼連帯保証人として
代表者が返済を迫られることになります。
金融機関にとって、かつては支払い督促のための有力な「武器」になった担保も、
この段階までくると殆ど担保余力としての価値はないのが常なのです。
それでもと、心理的威嚇あるいは交渉テクニックとして2番、3番といった「後順位」の
担保設定を迫るケースもまれにあります。しかしこれとて殆どが処分できても
その法的手続きのための手数料にも足りない「無剰余」状態のため、
効果は期待できないのが実態なのです。
こうなってくると、最後の頼りは第3者保証人なのですが、前述した通り
今はそれ自体が原則禁止ですので、保証協会の保証を付けている案件については、
協会に代わって支払ってもらうという「代位弁済」に向かうことになるのです。

保証協会の役割

返済の遅れた債権に対するもう一つの機関は保証協会です。
保証協会というのは、その名の通り延滞して払えなくなった企業に代わって
金融機関に支払いをする機関です。
各都道府県単位の他に、大阪のように府と市のあるところもあるため全国に52あります。
ところでこの協会ですが、金融機関からの通知、移管処理を受けた後、
まず金融機関に残金を払います。この「代位弁済」をした分の支払いを
債務者に対して要求します。
しかし、払えないから協会に移管されたわけで、よほどのことがない限り、
これも払えないのが常です。そうすると協会は協会系の債権回収会社である
保証協会債権回収(株)に支払いや督促を依頼します。
ここまでは民間のサービサーと似ていますが、異なる点があります。
それは債権を協会からサービサーには売却しないということです。
民間のサービサーは不良債権を一括して購入した後、債務者を折衡し、
相手方の状況によっては、時に債務残高の1割くらいで手を打つことも
珍しくありません。
これに対し、協会系の仕事は専ら督促に限られており、
協会からの債権売却も殆どありませんので、
事実上、督促代行係に特化しているのです。ここでは折衡記録は全て
データ入力されており、督促返済の実をあげるべく、これらを数値化、
ポイント化しています。しかし、昨今の不良債務の急増に
処理が追いついていないのが実情です。

保証協会を再保険する公庫

では協会が、金融機関の肩代わりをしたあとはどうなるのでしょうか。多くの人は協会が債務を背負い込んでいると思っているようですが、そうではありません。一般にはあまり馴染みはないでしょうが、統合されるまでは中小企業信用保険公庫という政府機関があり、ここが再保険していたのです。この保険公庫は中小企業金融公庫に吸収され、中小公庫も国民生活金融公庫などと共に日本政策金融公庫に一本化されましたので、今は日本公庫が肩代わりしていることになります。余談ですが、国民公庫の窓口などで何故、協会保証は付けられないのか、と質問する事業者の方がいました。この答えは結局、国が国を保証する、いわば「タコ足保証」のようになるからということになります。
今、この日本公庫の1年間の赤字が、2年前で1.1兆円、
制度の見直しなどがあった今年12年3月期は
いく分減ったとはいえ、まだ3,000億円もあります。
この殆どが、協会への支払い保険金によるものなのです。

ドンズー日本語学校(本校舎)旧保険公庫の業務は
ここで取り扱っている

制度利用は30~40万社

冒頭にも説明しましたように、円滑化法は
再延長の期限が来年2013年3月に到来します。
亀井新法とか金融モラトリアム法などとも呼ばれるこの円滑化法ですが、
実はこの法律の制定以前からも困窮者に対する条件変更については、
各金融機関共、それなりに対応してきていたのです。
ただこの法律の施行で、不良債権区分などの金融庁からの基準や
運用がより柔軟にできるようになり、97%と言われるほどの高い認可に
つながったともいえます。同時にこのことが「延長申請すればだれでも通る」
ということになり、なかにはモラルハザードに直結しそうな案件が生じてきたのも、
これまたまぎれもない事実なのです。
そして申入れる側の温度差はあるものの、この制度を利用した中小企業の数は
30~40万社、期間延長の累計額は約80兆円、
申込み件数は12年5月までで300万件を超えています。

返済に窮した場合の予備知識

これまで、融資や延滞、金融機関や協会の流れについてみてきました。次に、元の同僚や後輩の仕事に支障をきたさない範囲で、具体的な相談の手順や相手先について説明しましょう。この場合、担保や保証人による弁済能力がないケースを念頭に進めます。

日川 弘さん金融円滑化法を報じる新聞各紙

1.借入れ先の金融機関に返済が困難になっている旨連絡する。
   ・・・その際自分の借入番号、残高はもとより、事情を説明できる資料、
      メモも用意しておく。

2. 金融機関の延滞、条変等の専門窓口を紹介されるので、そこで事情を説明する。

3. この間に口座の残高が不足し、返済が出来なくなる。
   ・・・金融機関または系列のサービサーより督促状が届く。

4. 上記2または3の担当窓口にあらためて事情を説明する
   ・・・協会への代位弁済手続きに移る。

5. 4と前後して協会より連絡が入る。
   ・・・協会系サービサーへの引継ぎ、手順の説明、「分割弁済承認願」の提出

6. 協会系サービサー担当窓口で条変、分割弁済契約等の手続きを進める。

7. 上記6の弁済計画に沿って支払う。

金融機関や協会部所によって若干の差異はありますが、大差はありません。
ここでのポイントは従来の返済方法に変えて新たな条件で返済をスタートさせる
リ・スケジュール(リスケ)と呼ばれる条件の変更です。一度リスケをしますと、
原則としてそれが返済されるまでは追加融資などは一切受けられなくなりますが、
毎月の返済額は少なくなります。もちろんこれはこれで当面助かります。
しかし、リスケでより重要なポイントは、どれだけ返済額を元金に
充当させてもらえるかということです。
なぜなら、本来の利息計算規定では、まずはじめに延滞利息、次に普通利息、
最後に割賦元金に達する金額が残っていればこれを元金に充当し、
足りなければ内入金として預るのがルールだからです。
単に毎月の返済額を少なくしただけだと、
ほとんどが利息に充当され、元金がなかなか減らないことになります。
このあたりは少し専門的になりますので、
上記の流れを頭にいれて直接、当該担当者に率直に話をすることが肝要です。

「詐害行為」「会社分割」は要注意

よくコンサルタントに高いお金を払って
この種の算段を丸投げする経営者がいますが、いかがなものでしょうか。
自分で考えて自分で折衝した方が、好感を持たれる確率が高いですし、
何より知識は増えて、お金はその分減りません。
この間に返済に回す資金ができたり、担保余力が出てきたような場合はもちろん
それによる返済を求められます。虚偽の申請や資金隠しなどが発覚しますと、
こうしたリスケ話はご破算になります。
また、まれに不動産を所有しているような場合で、申請直前に保証人になっていない親族に
所有名義を移して差押えを免れようとするケースもあります。
こうした行為は「詐害行為」として
所有権移転が取消されることがありますので注意が必要です。
さらに、最近になって最高裁は、傾いた会社から比較的ましな資産だけを
新会社に移して債務を逃れるといった「会社分割」についても、
これを認めないという判断を示しました。これらは、仮にリスケが認められたとしても、
その後のことも併せて考えないと結局はまた、
元のもくあみになりかねないことを暗示しているようです。
来年2013年4月になったとしても、
前述したような仕組みやルールの根本は、今のところそう変わらないと見込まれます。
その意味では、月並みなことですが、「早目の率直な相談」が、
深手を負わない道のように思われます。

【文・写真】
坂内 正(ばんない ただし)
ファイナンシャルプランナー、総合旅行業務取扱管理者。元政府系金融機関で中小企業金融を担当。退職後、旅行会社の経営に携わり、400回以上の渡航経験を持つ。ロングステイ詐欺疑惑など、主にシニアのリタイアメントライフをめぐる数々のレポートを著す。
著書に『年金&ロングステイ 海外生活 海外年金生活は可能か?』(世界書院)
ミンダナオ国際大学客員教授 『情報と調査』編集委員